2017年4月、「中国茶アドバイザー/インストラクター」主催の『張老師と学ぶ杭州最新中国茶事情』研修に参加させていただきました。 当時の様子を、写真付きで。
茶産地への旅 中国 杭州
私たちが訪れたのは4月中旬、2017年は茶摘みの開始時期が遅れていた影響でちょうどシーズン真っ盛りだった。熱気がすごい。
西湖龍井に携わる人々はみんな自分の仕事に自信と誇りを持っていて、伝統は守りつつもより良いお茶を作ろうと熱心に研究したり試行錯誤を重ねている様子はとても頼もしかった。
これからも中国を代表する茶産地としてどんどん進化していくのだと思う。
新緑まぶしい杭州
私たちの杭州滞在中は、天気に恵まれた。日中の気温は25℃を超え、夏のような陽気。日差しも強い。
春の杭州はとにかく新緑がまぶしくて。龍井茶の茶畑はどこもかしこも茶摘みや製茶で忙しくしている人たちがいて。年に一度の新茶の時期。その熱気や気迫に満ちていた。
2017年の新茶は摘み始めが3月22日。3月9日に始まった去年と比べるとだいぶ遅い。収穫前の2月頃に雨が少なく成長が遅れたそうだ。また、収穫時期に低温と降雨が続き芽が育たず、例年に比べると芽は小ぶりになっている。
新しい中国茶葉博物館
新しくできた茶葉博物館を訪れた。昔からある茶葉博物館からさらに車で10分ほど山を登ったところにある。
自然と伝統が融合したような美しい空間が心地良い。
伝統的な佇まいの建物の中には現代的な雰囲気のカフェがあって
そこでは、浙江省だけでなく中国各地の茶葉を販売していた。
カフェの店員さん、日本人の私たちに英語で丁寧に対応してくれて。菊花茶<杭白菊>の試飲をさせてくれた。真剣なまなざしで綺麗にお湯を注ぐ姿がかっこよかった。
このカフェには「龍井ラテ」というのもあった!龍井の茶葉を粉末にしてエスプレッソで抽出。
飲んでみるとスタバの抹茶ラテみたいな味だけど、もっとお茶の味が濃くてピリッとした渋みを感じる。美味しかった。杭州のお茶は進化を続けている・・・
“炒茶王”唐小軍氏を訪問
下満覚隴(下满觉陇)村の”炒茶王”唐小軍氏を訪問した。
龍井(満覚隴)の茶畑
ゆるやかな山の斜面いっぱいに広がる茶畑。
みんな何か世間話をしながら、そこかしこで茶摘みをしていていた。
遠くに西湖を見下ろす気持ちいい場所。やさしく風が吹き抜けて、思わず両手を広げて深呼吸したくなるような。
ここはそこまで広い茶畑ではないけど、足元をよく見ると場所によって土が違うのだと。
白っぽい石灰を含んだ土は水はけがよく茶樹栽培に適している。一方、茶色くて細かい泥のような土は保水性が高いので良くないのだとか。
唐小軍氏はご自身でいろんな土を採取して研究していた。
唐小軍氏の完全手工龍井茶を味わう
“炒茶王”唐小軍氏の完全手工龍井茶。これは4月5日に収穫したお茶。
完全手作りのお茶を作るのは本当に大変なことだ。
手摘みで収穫した新鮮な茶葉をふるいにかけてサイズ毎に選別し、6時間ほど萎凋をする。その後、表面温度が260℃にもなる釜に茶葉を入れ、素手で丁寧に炒る。たぶん素手で野菜炒め作るくらいすごい。その熱さたるや想像もできない。
製茶師のみなさん、手のひらの皮がすっかり厚くなっていて皺がほとんどなくなってた。
8時間にわたりその作業を何度も繰り返して、ようやく龍井茶は完成する。機械に頼らず手作りで仕上げるお茶・・・そりゃ値段が高くなるのも当然だと思った。
茶葉は3g程度。熱湯を直接蓋碗に注いで10秒も待たずにすーっと茶海にお茶を出す。
龍井特有の豆っぽさは殆どなく、その香りは蘭の花に例えてもいいくらいふんわり華やかで。
お茶の味は清らかで透き通るような透明感。控えめでやさしい口当たり。
お茶がするーっと口の中を通り過ぎていって、後にはほんのりとした甘い後味が残る。
5煎ほど飲んだところで白湯をくれた。あたたかい白湯を口にふくんで2~3秒待つ。
口の中全体で感じた後に飲み干すと、じんわりとあの甘みが蘇る。
こういう味の感じ方もあるんだ。
気が付けば10煎くらいは飲んでいたかもしれない。最後の方はもうほとんど味も出ていないはずなのに、何かを感じる。味を探してしまう。もっと、もっと・・・と体が欲してるみたい。
龍井茶はそれなりにいろいろ飲んできたつもりだけど、この唐小軍氏のお茶で龍井のイメージがまたガラッと変わってしまった。
貴重な体験だった。
獅峰龍井の茶畑と18本の茶樹
西湖龍井の五大一級産地の一つ、獅峰。
日本でも手に入れるのが難しい高級なお茶の産地。龍井村の北部、古くからある茶畑「老龍井御茶園」の奥にある。
ここが獅峰・・・感慨深い場所だった。
産地の様子は、他の龍井や梅家塢と比べると傾斜がかなりキツイ印象。あの上の方まで登って茶摘みをするのは大変な重労働だ。
清代の乾隆帝が持ち帰り皇太后の病を治したという逸話もあり、歴代皇帝に献上されていたという18本の茶樹も見学した。
「老龍井御茶園」の中は他にも九溪源や北宋時代の高僧・辯才大師を祭る廟、高級官吏・胡則の墓をはじめ、美しい庭園が整備されていてゆっくり時間を過ごすには心地いい場所だった。
西湖龍井唯一の有機茶園
梅家塢の隣、雲栖の片隅にある龍井茶産地唯一の有機茶園を訪問。
緑の美しい山道を進んでいく。
そこは関係者やその友人知人しか入れないという、こじんまりとした秘密基地のような場所だった。
もともとは人民解放軍が管理していた土地で野生の茶樹が生えている場所だった。そこを、とある茶農家が軍と契約して管理権を取得したのだとか。
ところが当初はこの茶葉で作ったお茶は味がせず売り物にならなかった。何年にもわたる試行錯誤を経て現在のような質の高い有機茶を生産できるようになったのだと。
年間生産量は約300斤(150kg)だけ。この貴重なお茶はすでに予約いっぱいで買いたくても買うことができない。ありがたいことに、ここの有機茶を飲ませてもらえた。
この環境で、このお茶。
至福以外のなにものでもない。
ちょうどお昼の休憩時間。摘み手のみなさんが続々と集まってきては摘んできた茶葉の品質をチェックする。そして足早に製茶場へ運んでいく。
摘みたてふわふわの茶葉。かわいい。
森に囲まれていて隠れ家みたいなこじんまりした茶畑。
外の喧騒なんか聞こえなくて、ただただ小鳥や虫の鳴き声や人の話し声が静かに聞こえてくるだけ。
風も穏やか。
日差しがあたたかく降り注ぐ。
2時間くらいこの場所でのんびりお茶を飲んでいたけど、帰路に着くのがとてもとても、名残惜しかった。
張老師との新茶テイスティング
張老師の茶館で6種類の緑茶をテイスティングさせてもらった。
- 機械製の龍井(明前)
- 半手工製の龍井(雨前)※半手工=殺青は手で釜炒り、乾燥は機械
- 新製法の安吉白茶<玉玲瓏>(揉捻と悶黄をしたもの)
- 径山茶
- 福鼎種で作った開化龍頂
- 碧螺春
珍しいお茶も飲ませてもらって、とても勉強になった。多くの気づきがあった。
中国緑茶はよくガラスの器で淹れるけど、その目的は美しい茶葉の様子を楽しむためであって、お茶の味はどうしてもかたくなってしまうのだという。
今回は勉強、ということで張先生はガラス茶海で淹れてくれて、そのどれもがとてもおいしかったけど、同じお茶を磁器の蓋碗で淹れると1.5倍くらいはさらに美味しくなるのだとか。
茶葉は自分で飲む前に選別するとより一層おいしく飲める。
形のきれいな茶葉は蓋碗で。
それ以外の細かい茶葉は紫砂壺で。
細かい茶葉は苦味などが出やすくなるけど、紫砂壺はそれを吸収してまろやかにしてくれる。
蓋碗で淹れるとお茶の香りは開放的にふわっと広がる。
紫砂壺で淹れると、香りはお茶の中で感じるようになる。深みが出る。
お湯の動かし方でお茶の味は変わるという。
真剣なまなざしで茶葉を見つめやさしく丁寧にお湯を注ぐ張老師は美しかった。
そうして張老師が淹れてくれたお茶はどれも抜群においしかったし、茶葉もとっても気持ちよさそうな感じがした。
張老師がエネルギーを注いだことによって茶葉が摘みたての新鮮で生き生きとした姿を取り戻したような・・・
お茶を淹れるって、こういうことなのか。
美しい茶館とおいしい料理
杭州滞在中は食も充実していた。龍井を飲みながら食べる農家料理。贅沢。
レストランでも茶葉を売っていて。龍井茶の釜炒りをしていた。
部屋の中が香ばしい香りでいっぱい。ほっこりため息が出る幸せな香り。
永福禅寺の茶館。新緑まばゆい木々に囲まれた開放的な空間。気持ちよさそう。
アマンファユン (Amanfayun)リゾートの中にある「和茶館」。
ここでいただいた龍井鶏スープ。すっきりさっぱり、でもコクがあっておいしい。
そして食後に出てきたのが明前獅峰龍井!
オーナーの計らいでこんな貴重なお茶を飲ませていただくことができた。感謝、感謝。
最後に
みなさんのおかげでひたすら、ただひたすらにおいしい緑茶を飲み倒しまくった幸せな旅となりました。
本当にありがとうございました。