薬膳とは、中医学に基づく食養生のことです。
古代中国では「薬食同源」として、食事も薬として考えられてきました。薬のない時代は食事によって病気を治療していたのです。
歴史の中で積み重ねられてきた臨床結果によって食材にはそれぞれ効能があることが分かり、その知識を日々の食事に利用したものが薬膳です。
薬膳では、食べ物を五味、五性、帰経の3つの作用に分けて考え、その時々の季節や自分の体質を考慮して食材のバランスを整えます。
このページでは薬膳を実践するための3つのポイントと、五味、五性、帰経について解説します。
薬膳を実践する3つのポイント
薬膳を実践する上では、以下の3つのポイントを中心に食材を選びます。
- 五性を考える
- 五味を考える
- 季節と体質を考える
身体を温めるか冷やすかの「五性」、身体にどのような作用をもたらすかの「五味」に加え、その時の季節や自分の体質とのバランスを考慮することが大切です。
漢方の生薬にも薬膳と同じように、五味、五性、帰経の作用があり、その人の体質に合わせた処方を施します。
五性の概要と主な食材
五性(ごせい)とは、その食材が身体を温めるか冷やすかの度合いを表します。
寒い冬は身体を温める作用のある熱性や温性の食べ物を、暑い夏は身体を冷やす作用のある寒性や涼性の食べ物を摂取することで体調のバランスを整えます。
五性 | 寒性 | 涼性 | 平性 | 温性 | 熱性 |
温めるか 冷やすか | 身体を 冷やす | 身体を やや冷やす | どちら でもない | 身体を やや温める | 身体を 温める |
作用 | ・体内の炎症を抑える ・のどの渇きや痛みを緩和 ・解毒作用 ・余計な水分を排出 ・夏バテ予防 | ・体内の炎症を抑える ・解毒作用 ・余計な水分を排出 ・ほてり、のぼせの改善 ・身体を潤す | ・陰陽の バランスをとる ・常食しても問題ない | ・循環機能向上 ・気力の増強 ・代謝の促進 ・痛み止め ・疲労回復 | ・冷え症改善 ・循環機能向上 ・気力の増強 ・代謝の促進 ・痛み止め |
体質 | 湿熱 | 湿熱 陰虚 | どの体質にもOK | 気虚 血虚 瘀血 気滞 | 陽虚 |
代表的な 食材 | きゅうり、トマト、 もやし、あさり、 しじみ、すいか、 バナナなど | 大根、冬瓜、なす、 レタス、しめじ、 小麦、緑豆、小麦、 梨、いちごなど | キャベツ、白菜、 とうもろこし、エリンギ、 じゃがいも、米、 たまご、 りんご、みかんなど | ニラ、ねぎ、タマネギ、 しょうが、かぼちゃ、 鶏肉、えび、桃 など | 唐辛子、にんにく、 シナモン、山椒、羊肉 など |
さまざまな食べ物がありますが、その約70%は平性であると言われています。
五味の概要と主な食材
五味(ごみ)とは、その食材が身体にどのような作用をもたらすかを表します。
五味は食べ物の味だけでなく、その味が持つ作用によって分類されているため、実際に食べた時の味と違う分類になっている食材も多いです。
五行色体表にもある通り、五味はそれぞれ五臓に対応しています。
五味 | 酸 | 苦 | 甘 | 辛 | 鹹 |
五臓 | 肝 | 心 | 脾 | 肺 | 腎 |
作用 | ・筋肉を引き締める(収斂) ・津液を作る(生津) ・固める(固渋) ・発汗抑制 ・唾液を分泌 | ・便通改善(瀉下) ・湿を排除(燥湿) ・解毒 ・熱を下げる(清熱) ・精神安定 | ・脾胃を調和(和中) ・痛みを和らげる(緩急) ・虚弱を補う(補益) ・緊張緩和 | ・気血の流れを促進(行気) ・痛み止め(活血止痛) ・寒邪を排出(散寒) ・発汗促進 | ・固いものを和らげる(軟堅) ・塊を解消(散結) ・便通改善(瀉下) |
適応症 | ・多汗 ・慢性下痢 ・頻尿 など | ・発熱 ・食欲不振 ・便秘 など | ・慢性疲労 など | ・風邪 ・冷え ・瘀血 など | ・便秘 ・血虚 など |
代表的 な食材 | レモン、トマト、梅、 さんざし、りんご など | 苦瓜、オクラ、 銀杏、茶、など | なす、冬瓜、 とうもろこし、 バナナ、たまご など | しょうが、ニラ、 春菊、ネギ、 コショウ、唐辛子 など | アサリ、イカ、 昆布、カニ、 豚肉、醤油、みそ など |
帰経とは
帰経(きけい)とは、その食材の効果が発揮される臓腑を表しています。
五味にはそれぞれ対応する五臓がありますが、それとは別に、食材によって特定の臓腑に働きかけるものもあります。
その食材が、肝、心、脾、肺、腎のうちどの臓腑に効果的かを示すのが帰経です。
季節に合わせた薬膳の考え方
中医学では天人合一説に基づき、自然界の陰陽の変化とともに人体の陰陽も変化すると考えられています。
春から夏、秋から冬と一年を通じて季節は大きく変化します。そのため季節の変わり目などは特に風邪をひきやすくなったり等、私たちの身体にも不調が起こりやすくなります。
春には肝、夏には心、秋には肺、冬には腎・・・と季節によって活発になる五臓に合わせて食材を選ぶことが養生のポイントです。
季節に合わせた食材の選び方は下記の通り。
季節 | 春 | 夏 | 長夏 (梅雨) | 秋 | 冬 |
五行 | 木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
陰陽 季節の 特徴 | 陰が弱くなり 陽が強くなる (陰消陽長) | 陽気が最も強く 陰は弱い (陽盛陰生) | 陰が強く 陽が弱い | 陽が弱くなり 陰が強くなる (陽消陰長) | 陰が最も強く 陽が弱い (陰盛陽消) |
補うべき 五臓 | 肝 | 心 | 脾 | 肺 | 腎 |
補うべき 五性 | 温性 涼性 平性 | 涼性 寒性 | 温性 平性 | 涼性 平性 温性 | 温性 熱性 |
補うべき 五味 | 酸味 辛味 甘味 | 苦味 酸味 鹹味 | 甘味 苦味 淡味 | 辛味 苦味 甘味 酸味 | 鹹味 甘味 酸味 辛味 |
必要な 養生 | ・肝を補う ・陽気を発散する | ・心を守る ・夏バテ予防 | ・脾を補い、 消化機能を高める ・湿を予防 | ・肺を養う ・乾燥による 津液不足の予防 | ・腎を補う ・身体を温め 風邪を予防 |
効果的な食材例 | ・肝を養う ⇒牛乳、たまご など ・気の流れを改善 ⇒大根、セロリなど | ・熱を冷ます ⇒きゅうり、ナス、 スイカ、トマト など ・気、津液を補給 ⇒キャベツ、緑豆など | ・脾を補う ⇒芋類、大豆など ・湿を排出 ⇒しょうが、大根、 冬瓜など | ・肺を補う ⇒鶏肉、くるみ ハチミツなど ・乾燥予防 ⇒レンコン、りんご、 梨、豆腐など | ・腎を補う ⇒エビ、鶏肉、 ニラなど ・水分を補う ⇒ホタテ、ゴマ、 たまごなど |
例えば夏に養うべき五臓は心。暑い夏は火に属する心も熱を持ちやすくなるため、寒性や涼性の食材を摂取することで火照った身体を冷やすことが大事です。
逆に熱性や温性の食材ばかり食べてしまうと身体はさらに熱を持ってしまうので望ましくありません。
体質に合わせた薬膳の考え方
中医学では、生命を維持する基本要素である気・血・津液の過不足によって体質を8種類に分類しています。
8つの体質・身体の症状
気虚(ききょ)
気虚とは、気が不足して機能低下が生じている状態のこと。新陳代謝が悪くなり、臓腑の働きも低下、疲れやすく、やる気も出ず、免疫力も低下します。
血虚(けっきょ)
血虚とは、血の不足や血の機能の衰えによって生じる病態のこと。
顔色が悪い、肌の乾燥、白髪、といった肌や髪のトラブル、不眠などの症状があります。血虚が悪化すると体が冷えを感じるようになってしまいます。
陰虚(いんきょ)
陰虚とは、津液の不足により潤いが足りず、熱が身体にこもった病態のこと。
特に年齢が高くなると津液は不足しがち。また、ホルモン療法を行っている人も陰虚になりやすいです。肌が乾燥し、ドライアイにもなりやすくなります。
陽虚(ようきょ)
陽虚とは、気が不足しているために自分の体を温める力のない病態のこと。気虚が悪化した状態。冬に悪化しやすい症状。
気滞(きたい)
気滞とは、気が滞った病態のこと。正常な状態は、「気」が滞りなく全身を巡っていること。
ストレスや心身の疲労によって気の流れは滞ってしまいます。気が滞ると、つかえ感やイライラ、不安感、集中力の低下など様々な症状が出てきます。
瘀血(おけつ)
瘀血とは、血が滞り巡りが悪くなった病態のこと。血瘀ともいう。
冷えや暑さ、精神的なストレス、睡眠不足などによって症状が悪化します。特に血の巡りが悪い部分に刺すような痛みを感じたりしこりができたりすることも。
水滞(すいたい)
水滞とは、津液が滞った病態のこと。痰・湿・飲ともいう。
余分な津液が身体にあふれるとむくみや下痢を生じさせます。津液が停滞し粘稠(ねんちゅう)なかたまりになると、気や血の流れも滞り、症状はさらに悪化します。
湿熱(しつねつ)
湿熱とは、津液が滞って熱を帯びた病態のこと。熱痰・湿熱、陽熱ともいう。
薬膳では、冷えやすい体質の人は身体を温める食材を、ほてりやすい体質の人は身体の熱を取る食材を選ぶことが重要です。
例えば夏だからといって、冷え性の人が寒性の食材ばかり食べてしまうのは良くありません。
夏=身体を冷やす食材、と結論付けてしまうのではなく、最終的には自分の体質に合った食材を選ぶのが大事です。
夏のクーラーで冷えを感じている場合は身体を温めるものが必要!
参考記事
本記事は、下記リンク先の書籍を参考に作成しました。